きっと大丈夫、なんてない。
分かってるふり、なんだな結局。
危機感が足りないのは、平和大国の風潮なのか。
自分で自分の身を守る力とやらを、
本当に持ってる人ってどれくらいいるんだ?
きっと大丈夫、って言ってる場合じゃない。
気をつけてるよ一応、って 一応 なんて言ってちゃダメ。
自分、油断してました。
幸い大事には至らなかったのだけど、少々怖い目に遭った。
久しぶりに、遅い時間に岐路についたわたし。
特に何も考えずに、いつものように帰り道を歩いていたところ。
何やら挙動の怪しい奴がいた。
自転車に乗っていたそいつは、
蛇行運転をしながら異様に遅い速度で自転車を漕ぐ。
わたしを後ろから追い越す時に、じろじろとこちらを見てきたり。
何か変な違和感を感じて、思った。
この人、痴漢じゃないか?
そんな勘。
角を曲がって消えたその姿に、警戒しながら帰り道を急ぐ。
人の気配のないひっそりとした路地は避けて、
なるべくコンビニの脇や車がよく通る道を辿る。
それでも家の近くになると、
どうしても人寂しい道を通らなければいけなくなって。
家が近付いて気が緩んだ所為か、迷わずわたしはその道に入った。
この日は何故か、いつもは殆どいないはずの通行人がいた。
一人は品のいいジャケットを着たおじいさん。
辺りをきょろきょろと見回していた。誰か人を待っていたのか。
二組目は若い夫婦。
小さな子供を連れて、遅い時間なのに犬の散歩をしていた。
こんな時間に珍しいな。と、
その家族連れとすれ違ってから、ふと後ろを見ると。
電柱の脇に、さっき見た自転車に乗った男が居た。
自転車に乗ったまま電柱にもたれかかり、
さっきの家族連れが通り過ぎるのを待っている。
明らかに、おかしい。
つけられてる。
こいつ、絶対、痴漢だ。
それに気付いた瞬間、ぞっと鳥肌が立った。
自分が女である為の恐怖感。
手と足ががくがくと震え出したのが分かる。
つい先刻まで、おかしいと思いながらも、
「きっと考えすぎだ、何にもないよ」と心の何処かで思っていた。
その考えが、甘かった。
慌てて鞄から携帯を取り出しながら、
このまま歩き続けるべきか、立ち止まるべきか、と考える。
状況から考えて、すれ違い様に手を出す愉快犯か。
だったら立ち止まる方が危険かも知れない。
自転車の男がじりじりと横からわたし詰め寄るのと、
わたしが取り出した携帯から電話をかけ、言葉を発するのと、
同じくらいのタイミングだった、と思う。
「もしもし。ごめん、ちょっと電話付き合ってくれる?」
ここで大声を上げたりすれば、
激昂した男が何をするか分からないと思った。
わざとらしい会話はその為。
手を少し上げれば触れるほどの距離にまで近付いていた男は、
話し始めたわたしに、諦めたらしく。
わたしの横を通り過ぎ、そのまま走り去った。
危機脱出。
まだ震えの止まらない手で携帯を握り話を続ける。
電話の相手はTさんだった。
「今さ、変な人につけられてて」
「! そっち行くわ」
「ううん、もうどっか行ったから大丈夫。
でもあと家まで20秒くらいかな、電話させてね」
家を目前にしていても、危険度が下がるわけがない。
動揺を隠せないまま、沈黙がないよう言葉を繋げる。
無事に家に帰りついた。
それから、少しの間動けなかった。
気が昂ぶっているようで、放心状態のようで。
もしあの時、あの家族連れがいなかったら?
もし、なにも考えずに人気のない方の道で帰っていたら?
考えただけで、怖くなった。
怖い、怖い。
辱める対象として見られた時、こんなにも女は弱いものかと思う。
小学校の時、同じような痴漢に遭った。
自転車に乗った学ランの学生。夏にしては変な格好だ。
下校途中のわたしの前を通り過ぎた姿に、変だな、と思った。
案の定、そいつは痴漢だった。
すれ違い様の愉快犯。
今でも忘れられない。
今回、わたしが「もしかして、」と察したのは
昔と状況が似ていたからかも知れない。
何の経験もなかったら、もっと油断していたと思う。
だから、此処に書き留めます。
本当に、本当に危ないから。
きっと大丈夫、なんて思わないで。
誤解を生む例えかも知れないけれど、
電車やバスの痴漢とは毛色が違いすぎる。
これを読んでくれた女の子達が、
少しでも危機感を持ってくれたらなと思います。
ごめんTさん。
また、同じ心配掛けちゃったな。